しおりりばーしぶる(♥1)
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――はじめの頃は「バカな子だなあ」って思ってたんだ。
いまどき、好きな人を遠くから見守るだけの忍ぶ恋なんて、はやらないよ。
自分の想いを伝えようともせずに、好きな気持ちが大事だとかごまかして、
そんなのただ臆病なだけ。
伝わらない想いなんて、報われない恋なんて、なんにも意味ないじゃない。
そんなふうに思っていたんだ。
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「このピコモのコ、ポニテにしてると真由美ちゃんにそっくりだよね」
「え〜っ!? どこが!?」
ピコラのページの片隅を差して私が何気なく言った言葉に、真由美ちゃんは素っ頓狂な声を上げた。
一斉にこちらに向いた周りの視線に気付いて、慌てて声を潜める。
「に、似てないよ〜全然。たまたまこの髪型が同じだけだよ」
「そうかな〜自分でも思わない?」
「ないないっ、ないって」
顔を赤らめて、しきりに首を振る真由美ちゃん。
写真と見比べられるのを嫌がるみたいに、そそくさとページをめくってしまった。
「あっ、見て、読モオーディション今月末まで募集中!」
カラフルな文字でレタリングされたタイトルをそのまま読み上げる。
話題を逸らそうとしてるのが見え見えだよ、真由美ちゃん。
「うちのクラスにもこういうの受けてるコいるのかな?」
「真由美ちゃんは応募しないの?」
私が言うと、真由美ちゃんはさも意外そうに私の顔を見つめてきた。
「えっ、もしかして詩織ちゃん、応募したの?」
「ううん。でもほら、真由美ちゃんなら背も高いしすっごく細いし。モデルさんにピッタリじゃない?」
「もう〜また。私なんてダメだよ〜。絶対、ぜ〜ったい無理だって」
真由美ちゃんは私がからかっているとでも思ったのか、苦笑いで応えた。
そんなに「ぜ〜ったい」って強調しなくても、十分可能性はあると思うんだけどなぁ。
「詩織ちゃんこそ、可愛いしスタイルいいしファッションセンスあるし……原宿とか行ったらスカウトされちゃうんじゃない?」
「そうかな〜? 私こそ、全然フツーだと思うけど」
「そんなことないよ。詩織ちゃん、ピコモの子にも全然負けてないって思うもん」
「ふふっ、ホメすぎだってば」
ふたりでそんな話で盛り上がっているうちに、いつの間にか昼休みの残り時間は5分を切っていた。
「おがちん、遅いね」
「そろそろ佐藤くんたちも戻って来ちゃうかもしれないね」
そう話していた矢先、おがちんが息を切らして勢いよく教室に飛び込んできた。
「おまたせ〜〜! さっ、急いで佐藤くんの汗の匂いを堪能しにいくわよ!」
「うん、でももう時間ないみたい」
「うそっ!?」
壁の時計を確認したおがちんは肩を落とした。
「……ふたりともゴメン、給食当番でこんなに遅くなるとは思わなかったわ」
「いいよいいよ、おがちん。代わりにプールで佐藤くんの水しぶきをいっぱい浴びよっ」
「そうね! そうしましょ!」
次はプールの時間だ。他の女子もプールバッグを手に、教室から連れ立って出て行くところだった。
私はトイレに寄ってくからと言って、ふたりから少し遅れて更衣室に向かった。
――真由美ちゃん、どこかな。
隅の方だといいんだけど。
あっ、いた。
ひときわ目立つ長身が、更衣室の隅っこの方で巻きタオルにくるまれている。
私は他の子に割り込むように真由美ちゃんの隣まで行くと、そっと耳打ちした。
「真由美ちゃん、私、巻きタオル忘れちゃったみたい」
「えっ、そうなの?」
「うん、ママが干したまま入れ忘れちゃったのかな……どーりでバッグが軽いと思ったよ」
「そっか、じゃあ私の貸すよ。ちょっと待ってて、急いで着替えるから」
「いいっていいって。時間ないし、このまま着替えるよ」
「いいの?」
「へーきだよ。どうせ見られたって、女の子同士なんだし……」
と言い掛けたところで、私はさらに声のトーンを落としてささやいた。
「でもちょっとだけ恥ずかしいから……真由美ちゃん、壁になってくれる?」
「あっ、う、うん」
壁という言葉の意味を察した真由美ちゃんは、私にその場所を譲ってくれた。
ちょうど部屋の奥の角のところ。
私の身体はおがちんと真由美ちゃんの影に隠れ、ふたりに守られるような格好になった。
「これで安心だね、ありがと真由美ちゃん」
「うん」
隅っこにいてよかったよと付け加えると、真由美ちゃんはちょっと前屈みになって、
もそもそと巻きタオルの下で身体を揺らし始めた。
私も着替えなくちゃ。
カーディガンを脱いで。
ブラウスも脱いで。
スカートを降ろして。
ブラを外して、っと。
そこまで脱いだところで、チラッと隣の真由美ちゃんの方に目をやる。
すると真由美ちゃんが少し驚いた様子で、こちらに視線を送っているのが見えた。
……真由美ちゃんが、見てる。
私の裸を見てる。
視線を感じる。
横目で気付かれないようにしてるつもりかもしれないけど、私には分かるんだから。
でも私は何も気付いていないふうを装って、パンツのゴムに手を掛けた。
パンツをスルスルと脚に沿って滑らせていく。わざとゆっくり。じらすように。
(さっきホメてくれたから、特別サービスだよ♥)
前屈みの姿勢だと、真由美ちゃんの顔は見えない。
私は最後の一枚も脱ぎ捨てて全裸になると、バッグから水着を取り出すのにもたつくフリをしながら、
横目でさりげなく真由美ちゃんの様子をうかがってみた。
真由美ちゃんはもじもじと落ち着かない感じで、着替えの手も止まっていた。
ゆらゆらと目が泳いでいる。
そしてその揺れる瞳は何度かごとに、私の方へと向けられた。上に。下に。
私のカラダのひとつひとつを確かめるみたいに。
肌を指先でなでるようなその視線のタッチに、私の方までなんだかドキドキしてきてしまう。
見る者と見られる者、ふたりだけの息を飲むような時間。
でもそれも長くは続かない。
そろそろおがちんが着替え終わっちゃう。いつまでも裸のままでいるわけにもいかないし…。
私は名残惜しく思いながらも、視線を断ち切るように紺色の水着に足を通した。
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